からんとグラスの中の氷がひび割れて鳴った。ある暑い夏のこと。ほの暗い十六畳ほどの大きな部屋、鉄錆色の四ツ脚テーブルを三人の若い男が囲んでいる。壁に掛けられた木枠の掛け時計は……おおよそ五時頃を指している。もうあの人が帰ってきても不思議ではない時間帯だろう。  「おい、どうする?」  一人の若い男が言った。額から流れた大粒の汗が頬を這い、喉元を這い……、滴り落ちる。古くさいその机上には男の緊張と焦りを物語るように汗溜まりができていた。  「オレは……どこでもいい」  からんとグラスの中の氷がひび割れて鳴った。一人の若い男の許から、もくもくと白濁した排煙が立ち上る。煙の匂いに慣れない若い男の一人が鬱陶しそうに咳き込んだ。  「良いかおまえら、絶対後からぐだぐだ言うなよ? これで決まったことは絶対だからな」  その男の言葉を聞いて、若い男の一人がふと地面の方を見遣った。真白い新品らしきカーペットには……円上に大きく広がった深紅の染みが広がっている。そして赤い染みの中心の側には、ひび割れたガラス片がぽろぽろと落ちていた。半刻ほど前と比べると随分と綺麗になってはいるものの、まだガラス片は拾い切れてはいなかったようだ。言わずもがな、赤い染みは落ちることはない。  事故だった。誰がやったのかは定かではない。部屋の中で悪ふざけをしていたところまでは若い男たちの記憶の中に焼き付いていた。誰かが鈍い音と共に机か何かにぶつかった。気づいた頃には……、ガラス片と赤い染みがカーペットに広がっていたのだった。机上にはA4の用紙と、そこに書かれたあみだくじ。三本の線の延長線上には、若い男三人の名前が記されていた。  「もうじき帰ってくる……それじゃあ始めるぞ」  若い男の発言に他の二人はこくりと頷いた。口論の果てのあみだくじだった。誰がやったかはわからない。だが責任を取るべき誰かは決めなければならない。  ごくりと一人が唾を飲み込む。まさに一世一代のあみだくじ。細い黒線をなぞって滑らせる若い男の人差し指は、緊張から震えていた。  「…………」  「…………」  「…………」  がちゃりと玄関の扉を開ける音が聞こえた。その音とほぼ同時に何かを話す甲高い女性の声が若い男たちの耳許にまで届いた。足音が近づいてくる。  若い男たちがいる十六畳ほどの居間までもうすぐだった。黒線をなぞっていた若い男の指が止まった。一人が書かれた名前を見て、こくりと頷いた。  「――ちょっと! これどういうこと!?」  居間の扉を開けた齢三十から四十ほどの女性が驚愕の表情をその貌に貼り付けて叫ぶ。新品のカーペット上の惨状を見て、わなわなと震えていた。  「か、母さん……!」  からんとグラスの中の氷がひび割れて鳴った。冷たく水滴の付いたグラスの中には――、真赤いトマトジュースが注がれている。蚊取り線香の匂いに慣れない若い男の一人が鬱陶しそうに咳き込む。  「……あの実は」  あみだくじをなぞる指先の最終到着点。名前の記された少年が震える声で話し始めた。少年たちの夏はまだまだ長い。