宇宙船地球号がとある惑星の湖上に不時着した。スペースデブリによるマシントラブルを端にするものであったが、その軌道上に地球に似た惑星があったことが唯一の幸運であった。  「どうやらここは地球と似たような環境にあるらしい」  おびただしい数のモニターの数値をにらみ、隊長は部下に言い放つ。宇宙船内には隊長と彼を慕う三人の部下がいた。  「それは幸運でしたね」  「これなら宇宙服を脱いでも問題ないだろう」  モニターは地球の大気組成と同様らしい数値を映し、また気温を表すデータも人間が生活をするのに十分な数値を示していた。隊長は部下を連れて、宇宙船を飛び出す。まずは周囲に生体の反応があるかを確かめねばなるまい。意思疎通の取れる生命体でもいれば、地球へ帰る算段も付けることができるはずだ。  「隊長、湖の向こうにたくさんの生体反応がありました。どうやら街のようなものがあるかもしれません」  「そうか。ならば行ってみよう」  部下は時計型の生体レーダーを見ながら、隊長に向かって言う。隊長は部下の朗報に頭をこくりと下げ、湖を抜けるための準備を始める。そうと決まれば隊長の足取りも軽かった。四人は湖を渡り、多くの生体反応があるらしい街へと向かい駆けていくのだった。  街にはおびただしい数の犬がいた。宿らしき店先の立て看板の前にはプードルのような犬が眠り、路地裏ではポメラニアンのような犬がブルドッグのような犬と群れをなして歩き、飲食店らしい店の門口をチワワのような犬が通り抜けていくのが見えた。  「しかしこの街は犬ばかりだな」  「ええ、そうみたいです。何か事情があるのでしょうか」  「レーダーは犬だけか?」  「たぶん、そうです」  人間らしい生体物の反応は部下のレーダーには映らない。犬と意思疎通が取れるのかと思えば、そうでもない。地球の犬と似たような形をし、似たような知能を持った単なる哺乳動物であるのだろう。隊長と部下は街の状況に思案しながら、街の往来を闊歩する。すると物陰から痩せこけた齢七十ほどの老人が飛び出てきた。老人は何かを訴えているようだったので、隊長は自動翻訳機のスイッチをオンにする。  「――いけません! こんな真っ昼間から外を出歩いちゃあ」  「どういうことだ?」  「神さまの機嫌でも損ねたら、すぐにでも死んでしまいますよ!」  「神さまだ?」  と言って、隊長は老人の言わんとすることを理解しようと首を傾げた。  「ええ、そこいらにたくさんおりますとも」  老人の言葉に促されるように四人は当たりを見渡した。とすると老人の指す神さまとは見当違いでなければ、生体レーダーに映ったおびただしい数の犬を指すものだろう。  「なぜ犬が神さまなのだ?」  老人は首を傾げた。無理もあるないだろう。隊長は「頭を強く打って、記憶が飛んでしまっているんだ」と付け加えると、納得したように老人は答える。  「これはここ最近の話じゃあ、ありません。私が生まれるずっと前のことです」  老人は語った。かつてはここも地球と似たような場所であったらしい。しかし当時の為政者により、動物を愛護しないものに厳罰が下されるという旨の法律を作られた。その結果、ペットとして飼われていた生命力の強い犬が野犬化し、街を跋扈するようになったという。やがて犬を神さまだという頭のおかしい連中までも現れ、世の中はこう変わってしまったのだ。まるで意味のわからない話だと四人は思ったが、周りの状況を見るにどうやら嘘とも言えないようだ。  「つまり神さまの往来は邪魔するな、昼間は神さまの時間だから出歩くなと、そう言いたい訳だな?」  「ええ、そうです」  「ちなみに神さまの機嫌を損ねたらどうなるんだ?」  「神さまの鳴き声を聞いて、すぐに警察がやってきます。ヘタすれば簡単に殺されてしまいますよ」  街の通りには人の気配はまるでない。遠くの建物の中からこちらをじっと見つめる気配はあるので、確かに老人の言葉には説得力がある。  「すまない。記憶のせいで少しばかり疎くてな。それでは我々は一度帰ることにする」  「気をつけて下さい」  隊長は部下を連れて、宇宙船の内部へと戻った。隊長は部下とこれからどうするべきかを話し合った。地球に帰るにはどうすれば良いか、良い案はなかなか出てこなかった。  「隊長、いっそのことここに住んでしまいましょう、環境は幸い悪くないです」  「住むだと? 犬を神さまというふざけた惑星で我々が住めると思うのか?」